東京地方裁判所 平成3年(ヨ)2278号 決定 1992年12月11日
債権者
池田実
債権者
神矢努
債権者
徳差清
債権者
名古屋哲一
右債権者ら代理人弁護士
伊東良徳
同
遠藤憲一
同
大口昭彦
同
鈴木達夫
債務者
全逓信労働組合
右代表者中央執行委員長
伊藤基隆
右債務者代理人弁護士
小池貞夫
同
尾崎純理
同
小沼清敬
主文
一 債権者らの申立てをいずれも却下する。
二 申立費用は債権者らの負担とする。
理由
第一申立ての趣旨
一 債権者らが、債務者の組合員である地位を、本案裁判確定に至るまでの間仮に定める。
二 債権者らについて、それぞれ平成三年六月三〇日付けで打ち切られたところの、債務者犠牲者救済規定に基づく別紙一(略)記載の措置の存続を、本案裁判確定に至るまでの間仮に認める。
三 債務者は、債権者らに対して、それぞれ別紙(略)二記載の金員を仮に支払い、平成四年九月以降本案裁判確定に至るまで毎月一六日限り、それぞれ別紙三記載の金員を仮に支払え。
第二事案の概要
一 事案の要旨
本件は、債務者組合の指導に基づき争議行為を行った結果、郵政省から懲戒免職処分を受けた債権者ら組合員が、債務者組合の債権者らに対する犠牲者救済規定適用の打切りの決定及び組合員資格喪失の決定を違法として、犠牲者救済規定に基づく給与補償金の仮払いを含む犠牲者救済措置の継続と組合員たる地位の保全を求めた事案である。
二 事実関係
当事者間に争いのない事実のほか、本件疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。
1 当事者
債務者は、郵政省職員等によって組織された全国的単一労働組合であり、債権者らは、東京郵政局管内の普通郵便局集配課に勤務していた郵政省職員であり、債務者の組合員であった。
2 懲戒免職処分等と債務者の対応債務者は、昭和五三年一一月から同五四年一月にかけて、いわゆる郵政マル生反対闘争を全国的に展開し、債権者らは、債務者が全組合員に対して発した闘争指令に従い、職場闘争に参加した結果、昭和五四年四月二八日付けで、郵政省から懲戒免職の処分を受けた(以下「本件免職処分」という)。
なお、右闘争参加組合員のうち、懲戒処分に付されたものは八一八三名に及んだ。
3 組合員資格継続の承認
債務者は、闘争参加組合員に対する懲戒処分の撤回闘争を組合活動として強力に推進するために、昭和五四年四月、中央闘争委員会(中央執行委員会)内に反処分闘争指導委員会(以下「反処分委員会」という)を設置し、同年五月一二日の第五一回中央闘争委員会において、債務者が本件免職処分の取消し・撤回を人事院等に求めること及び被免職者の組合員資格の継続を承認することを決定した。債務者の全逓信労働組合規約(以下「規約」という)には、債務者組合員が郵政省の職員を退職(解雇・免職を含む)した場合には当然に組合員資格を喪失する(三九条一項二号)が、その場合でも中央執行委員会が決定を以て組合員資格の継続を認めることができる(同条二項)と定められているので、右中央執行委員会における資格継続承認の決定により、本件免職処分を受けたにもかかわらず、債権者らの組合員資格は継続されることになった。なお、仮処分委員会は、中央執行副委員長を責任者として中央執行委員らを構成員として中央執行委員会内に設置された組織で、その任務は、右撤回闘争につき各級機関と協議して方針を決定し組織的統一行動をとるべく各級機関を指導することにあり、被免職者の任務配置・任務分担についても、反処分委員会の決定に基づき、地方本部・地区本部を通して本人を指導した(この任務配置を債務者では「犠救出向」と呼んでいた。)。
4 免職処分取消請求訴訟
債務者は、反処分委員会の右決定に基づき、債権者らを含む被免職者五五名が人事院に対して本件免職処分の不服審査を申し立てるように指導したところ、債権者らは自ら当事者としてこの審査申立て手続をしたが、人事院は、一名を除く全員の右申立てを棄却(免職の承認判定)した。そこで更に債務者は、当該組合員が本件免職処分の取消しを求める訴えを東京地方裁判所に提起するように指導した結果、債権者らを含む四五名はこれに従い、自ら原告となって右訴訟を提起し、訴訟追行をするに至った。
5 犠牲者救済規定の仮適用及び適用・不適用
(一) 規約五八条及び犠牲者救済規定(以下「犠救規定」という)によれば、被告は、その組合員に組合機関の決定に基づいた組合活動により解雇、免職、昇給延伸等の救済をしなければならない一定の事由が生じた場合には、犠牲者救済委員会の適用決定に基づき、犠牲者救済金を支払うこととされている。
(二) 債務者は、債権者らを含む免職者五五名全員に対し、昭和五四年五月二日、中央執行委員会で、被免職者は地方本部・地区本部の掌握と指導の下に行動する原則を確認したうえ、組合規約二三条一項に基づき緊急事項の処理として、債権者らには犠救規定が適用された場合に補償される給与と同額を支給する旨の措置(同措置は実質的内容から見て「犠救仮適用」と呼ばれた。)をとることを決定し、右措置はその後の昭和五六年七月の第三五回全国大会において承認された。さらに、中央執行委員会は、債権者名古屋を除く債権者らを含む被免職者等について、昭和五六年九月一日付けで犠救規定適用を決定したが、債権者名古屋については昭和六一年六月一六日に右規定を適用しない旨の決定をした。
(三) 債権者名古屋は、免職処分後、債務者多摩地区本部の下に配属されていたが、昭和五五年三月の中央委員会において被免職者の任務の再配置の方針が決定されたので、これに基づき、反処分委員会は、同債権者に対して、同年七月一〇日以降全逓共済センターに配属することが指導された。しかるに、同債権者は、これを拒否し、同月一七日にされた警告にも応じず、さらに同年一二月二四日にされた債務者運営の江ノ島会館での勤務の指導にも応じなかった。そこで、中央執行委員会は、同債権者について、前記犠救仮適用の措置を継続することはもはや妥当性を失ったものと判断し、昭和五六年一月六日付けをもって犠救仮適用による支給措置を打ち切り、その後、前記のとおり昭和六一年六月一六日に犠救規定を適用しないことを決定した。
6 免職処分に対する反処分闘争の終結方針
(一) 債権者らを含む被免職者らの提起した本件免職処分取消請求訴訟は、その進行状況からして、一審判決を得るまでにさらに長期間を要することが予想されるに至った。そこで、右事態を重視した債務者では、本件免職処分撤回の実現もさることながら、処分後一一年を経過する中で二八名が既に各々の道を歩んでおり、一審判決を得るまでの時間を考慮すれば、個々の被免職者の生活設計にも多大な考慮を向けざるをえない時期にあると判断した。また、労使関係をめぐる環境の変化もあり、被免職者らの郵政省への再就職や関連企業への就職斡旋についても折衝が精力的に持たれた。
(二) このような状況のもとで、反処分委員会は、平成二年八月二二日、現在犠救出向している被免職者について、要旨次の<1>ないし<5>のとおりの対処方針を決定した。<1>郵政職員試験有資格者は、一〇月頃全員職員採用試験を受験する。<2>郵政関連企業等、民間企業へ就職斡旋する。<3>自立の道を進める。<4>犠救適用の特例を行う。<5>訴訟は取り下げる。この方針は、平成二年八月二八日から三〇日にかけて開催された東京地方本部大会で確認され、同年一一月一六日の第九七回中央委員会でも承認された。これに基づき、被免職者のうち一四名は平成三年二月二四日実施された東京郵政局の職員採用試験を受験することとし、その他の者は郵政省または債務者組合の斡旋により関連企業への就職を決したり自立の道を選んだ。さらに、平成二年一〇月三〇日までには既に就職・自立していた者も含めて被免職者三九名が前記訴えを取り下げる旨の意思を表明し、平成三年三月一一日右取下げ書が提出された。ところが、同年三月一六日右採用試験の受験者全員が不合格との結果に終わった。
(三) 右採用試験結果を踏まえて、債務者は、平成三年五月二二日開催された第九九回臨時中央委員会会議に本件免職処分に対する反処分闘争の終結に向けた次の<1>ないし<6>のとおりの提案をし、承認された。<1>一二年に及ぶ歳月の経過と重み、取り巻く状況の変化等を勘案し、反処分闘争について、組織的に整理し、終結を図る。<2>したがって、本臨時中央委員会以降は、省への再採用の道及び裁判闘争は断念する。<3>犠救の扱いは、これまでの反処分委員会決定と規定に従って対処する。<4>受験者の就職先確保に勤め、組織の責任で生活基盤の確立に全力を傾注する。<5>右<3><4>については同年六月末日までの間に終了する。<6>昭和五四年五月に発足した反処分委員会は、本臨時中央委員会をもって解散する。
(四) 右中央委員会の決定を受けて、債務者では、平成三年六月一七日開催された第三四回中央執行委員会で、本件免職処分に対する反処分闘争の終結に関し次の<1>ないし<6>のとおり具体的措置をとることを決定し、同年七月九日開催された全国大会において承認を受けた。<1>現在犠救出向中の者で郵政局外務職員採用試験を受験し、採用されなかった者については、就職斡旋を行い、生活基盤の確立に全力を傾注する。<2>この際、就職斡旋を辞退し、自立の道を選択する者については、その意思を尊重する。<3>右<1>及び<2>の者に対する犠救適用の特例措置は、反処分委員会の決定(平成二年一一月二〇日)のとおり清算して支払う。<4>右<1>ないし<3>の措置は平成三年六月末日までに終了する。<5>第九九回臨時中央委員会及びこの決定に基づく指導に従わない者については、同年六月末日をもって一切の犠救適用を打ち切る。<6>犠救出向者の有する組合員籍は、右<1>ないし<5>の措置により同年六月末日をもって喪失する。
(五) 中央執行委員会は、平成二年八月二二日の反処分委員会の決定を受けた同年一一月一六日の第九七回中央委員会の決定に基づき、平成二年一一月二七日、債務者の組合員籍を離脱する者に対し、最高一〇〇〇万円の特別加算金を支払うことを決定し、所属地区本部を通じて債権者ら関係者にその旨告知した。その後、中央執行委員会は、平成三年六月一四日、右離脱の期限を同月末までと定めた。なお、離脱を承諾した該当者に対しては、離脱時に特別加算一時金と五割加算された退職金が支給された。
7 債権者らに対する組合員資格喪失及び犠救規定適用の打切りの通知
債務者は、平成三年六月二四日中央執行委員長名義で債権者らに対し、平成三年六月三〇日付けで組合員資格を失う旨の「組合員・特別組合員資格喪失の通知」を発すると共に、債権者名古屋を除く債権者らに対し、「人事異動通知書」をもって、同人らに対する犠救適用は同年六月三〇日で打ち切る、したがって各人らの犠救出向も同日までとする旨の通知をした。
第三判断
一 犠救規定適用打切りの適法性について
1 債権者らは、債務者の犠救規定上、組合機関の決定に基づく組合活動により解雇または免職された者については、犠救規定適用の打切りをすることはできない旨主張するので、その点につき判断する。
(一) 債務者の犠救制度は、組合員が組合活動の故をもって不利益を被った場合に、これを組合活動の犠牲者としてその不利益をできるだけ補填しようとする制度であって、この制度の目的は、犠牲者の受けた不利益を救済することによって組合員相互の連帯意識を強め、また、安んじて組合活動に専心できるようにするところにあり、これにより組合員の団結の維持・強化を図ろうとするものであることは当事者間に争いがない。
そして、債務者の犠救規定(<証拠略>)には、犠救制度の運用について、「この規定の運用は中央執行委員会の責任においておこなうものとし、中央執行委員会に犠牲者救済委員会を設置し、具体的な救済を決め一切の事務に当る。」(三条)と、また、救済の範囲及び内容について、「犠牲者に対する救済の範囲及び内容は、この規定により、その事由、客観的条件その他の事情をもとに決定する。」(五条)とそれぞれ規定されており、給与補償については、「組合員である間満六〇歳に達するまで郵政省より当然受けるべき給与及び諸手当を支給し、給与改定については、公労法運用郵政省職員に準じて取扱う。ただし次の各号に該当する場合はその一部または全部を支給しない。(1)ないし(3)(略)、(4)労働可能な状態にあっても機関の指示に従わない場合、(5)その他救済委員会が必要と認めた場合」(一八条)と規定されているだけでなく、救済すべき事由が生じた場合の救済の内容については、「中央執行委員会の議を経て実情に応じて減額しまたは一部ないし全部を適用しないことがある。」(五一条)旨定められている。
(二) これらの規定によれば、救済事由が生じた場合の救済の可否及び内容に限らず、救済の変更、終了についても中央執行委員会に裁量が認められているものと解することができ、このように考えることは、団結の維持・強化を図ることを目的とする本件犠救制度の趣旨に反することになるものではないから、中央執行委員会は一旦犠救規定の適用を決めた後も、自己の責任においてその適用を打ち切ることができるものと解すべきであって、犠救規定の適用の打切りはできないとする債権者らの主張は採用し難い。
2 また、債権者らは、仮に中央執行委員会の裁量による犠救規定の適用の打切りができるとしても、それができるのは適用対象者が明らかに団結を害する行為を行った場合か、労働組合が存亡の危機に至るほど財政事情が悪化した場合に限られるところ、本件ではそのような事情は存在しないので、債務者組合による本件犠救規定の適用打切りはその裁量の範囲を逸脱したものであり、裁量権の濫用に該当し違法である旨主張するので、この点につき判断する。
(一) 犠救規定の適用及びその運用についての中央執行委員会の裁量は、それにより組合員の団結を維持強化するという前記犠救制度の趣旨・目的に由来するのであるから、その制度の趣旨・目的に沿う限度で許されるものというべきであるが、犠救規定適用の打切りについて、これを債権者らが主張するように適用対象者が明らかに団結を害するような行為をした場合や労働組合が存亡の危機に至るほど財政事情が悪化した場合に限らなければならないとする根拠はない。そして、犠救規定の適用や打切りを含めた具体的な運用が組合員の団結の維持・強化という目的に反しているか否かは、その時点時点における組合の運動方針とも深く関わるものであるから、その手続が明らかに規定に反している場合や同一事案において個々の対象者につき取扱いに差別・不公平があるなど著しく裁量の範囲を逸脱しており、犠救制度の趣旨に反することが明らかな場合を除き、その運用は組合の自主的決定に委ねられており、その裁量の範囲内にあるものと解するのが相当である。
(二) 本件の場合をみると、本件全資料によっても債権者らが明らかに団結を侵害するような行為をしたとか、債務者が存亡の危機に至るほど財政事情が悪化したとの事情は窺われないが、本件資料及び審尋の全趣旨によれば、債務者は昭和三三年以降本件免職処分までの間に約二五〇名の解雇・免職者に対して犠救規定を適用してきたが、三年以上給与補償を受けていた者は二割に満たず、一二年以上適用されていた者はわずか二件のみであること、昭和四七年の債務者の第二五回全国大会において、解雇・免職後三年を経過した者については書記への身分切換えや他への就職斡旋等を行なうことを原則とし、それ以降は一部あるいは全部の犠救金の支給をしないとの取扱基準が確認されたことが認められ、これらの事実と前記認定の債務者が本件犠救規定の打切りを決定するに至った事情や打切りに際して相当額の特別加算金及び退職金の割増支給がされていること、被免職者の大半が右方針を是認していることなどの事実を合わせ勘案すると、本件犠救規定の適用打切りが犠救制度の趣旨に反することが明らかで、中央執行委員会の裁量の範囲を逸脱しているとは認め難い。
以上のとおりであるから、債権者池田、同神矢、同徳差らの平成三年六月三〇日付で打ち切られた債務者犠救規定に基づく別紙一(略)記載の措置の仮の存続及び別紙二(略)、三(略)の金員の仮払いを求める申立ては、いずれも被保全権利の存在が認められないので、その理由がない。
(三) 債権者名古屋については、中央執行委員会において前記理由によって昭和六一年六月一六日に犠救規定全部を適用しないことが決定されたものであるところ、右決定は犠救規定一八条四号、五一条に基づいてされたものであり、その判断に違法があるとはいえないし、他に債務者が同債権者について犠救規定の全部を適用しなかったことが違法であるとする事情は認められない。したがって、同債権者についても、被保全権利の存在が認められないので、犠救規定の適用を前提とする別紙一の措置の仮の存続及び別紙二、三記載の金員の仮払いを求める申立てはその理由がない。
二 組合員資格喪失決定の適法性について
1 債務者が債権者らに対して組合員資格喪失の通知をしたことは前記のとおりであるところ、債務者は、組合員の資格の根拠は債務者組合の自主的判断にあるのであるから、その資格を喪失させることすなわち組合員資格の継続を将来に向かって承認しないことも中央執行委員会の職掌事項であり、その自主的判断に委ねられているものである旨主張する。
しかしながら、組合員資格の喪失は、組合員にとって最も重要かつ基本的な事項であり、その規定の解釈は厳格に解すべきところ、規約上は資格の継続を認められた組合員とそうでない組合員との間にはなんらの差異が設けられていない。そして、規約には、組合員がその意思に反して組合員資格を喪失する場合としては除名の制裁を受けた場合及び再登録が拒否された場合のみが規定されているにすぎず(三九条一項)、中央執行委員会の裁量判断に基づいて組合員資格を喪失させることができると根拠づける規定がない。これら規約の上からみると、組合員資格の継続が中央執行委員会の判断に委ねられているからといって、組合員資格の喪失までその判断に任されていると解することは極めて疑問であるといわざるをえない。平成三年七月九日の債務者組合の全国大会において、中央執行委員会の債権者らに対する資格喪失措置を承認した趣旨・法的根拠については、本件疎明資料の限度では明らかではない。
2 ところで、仮に本件中央執行委員会の決定による債権者らの組合員資格の喪失が無効であり、組合員たる地位が存在することが一応認められるとしても、そのことから直ちに組合員たる地位を仮に定める仮処分の必要性が当然に認められるものではなく、保全の必要性があるといえるためにはそれを認めない場合には債権者に「著しい損害または急迫の危険」が生じる場合でなければならない(民事保全法二三条二項)。
これを本件についてみるに、債権者らは、組合員資格にかかる保全の必要性として、本件免職処分をめぐる闘争方針につき債権者らは法廷闘争の貫徹を主張し、現執行部と意見を異にしているが、債務者の運動方針を債権者ら主張のような方向に是正させるためには組合員としての権利(選挙権、被選挙権等)を行使するほかないが、その権利の行使が阻まれていること、債権者らは債務者の地区本部委員会等を傍聴したり組合員に対しビラを撒く等の平和的説得活動をしているが、組合員でないことを理由として地区本部委員長等から右活動を妨害されていること、債権者らが郵便局に赴き職員や債務者の組合員に対し右平和的活動を試みたが当局管理者から債権者らが組合員でないことを理由に通行を妨害されたり局舎への立入を拒否されていること等を主張する。
しかしながら、そもそも地位保全の仮処分は相手方の任意の履行を期待する仮処分であるだけでなく、前記のように債務者の前記方針は中央執行委員会で決定されたうえ、最高決定機関である全国大会の承認を経ているものであることからすると、早期の方針変更の可能性は極めて少なく、本案判決を待ったのでは債権者らに著しい損害が生じたり急迫な危険が生じたりするとは認め難い。
また、債権者らが主張するその他の必要性も、結局は債務者の運動方針を変更させるための活動の必要性であるから、その可能性が極めて少ない以上、仮に債権者ら主張の事実が疎明されたとしても、そのことによって保全の必要性が認められるものではないだけでなく、当局による債権者らの活動の妨害については、当局は本件仮処分申立事件の当事者ではないため、仮処分命令が当局に対しては法的効力を生ずるわけではない。
以上のとおりであるから、仮に債権者らに対する中央執行委員会の組合員資格喪失決定が無効であり、被保全権利の存在が認められるとしても、保全の必要性があるとは認め難く、結局債権者らの組合員資格を仮に定める旨の仮処分の申立てもその理由がない。
三 結論
以上のとおり、債権者らの本件各申立てはいずれも被保全権利あるいは保全の必要性の疎明がなく、理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事保全法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 高田健一 裁判官 塩田直也)